「京都紋付」洋装和装全てを日本最高の黒に染める深黒(しんくろ)を追い求めて
「黒」という色にも、様々な黒があるということは、普段あまり意識していません。しかし服飾の世界では、その黒がいったいどんな黒なのかは思いのほか重要なようです。例えば礼服や喪服。多くの人が黒い服を着る現場では、その黒さの差が如実に表れてしまうのは、身をもって体験したことがあります。
そんな「黒」に創業以来こだわり続け、ついには日本最高の黒染めである「深黒(しんくろ)」というレベルにまで昇華させてしまったのが、京都の染め物業者「京都紋付(きょうともんつき)」です。先日の「いとやのタオル」案件で同時に取材させていただいた、こちらの「黒さ」の秘密とは!?
和装にとって黒は重要だ
京都紋付の「黒」に対するこだわりがはじまったのは、創業当初である大正4年から。その頃から100年以上も日本の伝統的な正装である「黒紋付」にこだわって黒を追求してきたのだそうです。Webサイトに凄いことが書いてあって
ただひたすら世界一の黒を求め、黒を一層深みのある黒へと。
「体を切ったら、黒い血が出てくるかもしれん。」
先代荒川忠夫のこの言葉が、京都紋付の黒へのこだわりを如実に表しているかもしれません。
京都紋付とは – 株式会社京都紋付 – 京都の黒染め・染め替え
黒い血!
現在の社長の荒川さんによれば、黒く染めることは「礼」だと。
さてさて、そんな前情報で京都紋付さんに行ってみてですね、真面目に凄まじいなと。凄まじい黒さだなと。正直なはなし、黒い色をなめてました。黒って染めればなんでも黒になってシンプルだね!と思っていましたが、そうじゃなかったんですよ。
そもそも。和装であれば、素材も一定ですし、1枚の布で構成されているため、その黒さを追求することは比較的容易なんだそうです。確かにバリエーションが少なければ、試行錯誤も少ない回数で済みますよね。
ところが、京都紋付のすごいところは、これを洋装にも取り入れてしまったところですよ。洋装を染めるということは、既に服として完成されており、様々な素材や下地の色が混在しているということ。それに対して「日本で最も黒い」ということをあまつさえ「深黒(しんくろ)」なんて言葉を作ってしまって特徴としているわけですから、それこそ半端な黒さでは許されないと思うんですよね。
ところが、本当に黒いんですよ。驚くほどに黒い。その黒さの特徴は、光が当たっても黒さを保っているよう見えること。実は深黒の秘密はそこにあって、様々な光源下でも黒く見えることこそがその特徴なんだそうです。もちろんどうやって実現しているかは企業秘密…と思いきや、作業現場は「全て撮影して良いよ」ってマジですか。
こうして布は黒くなる
京都紋付の深黒染めには、2つの種類があります。それこそ、単一の素材、つまりシルクである和装を染める深黒染めと、様々な素材、つまり洋装を染める深黒染めです。
まず見せていただいたのは和装の深黒染め。
このごっつい機械に
京都紋付オリジナル開発の深黒染め液が満たしてあり
針で吊した和装の布が
決まった温度・時間で上げ下げのローテーションをされる。ちなみに針で吊すのは「すれ」を防ぐため。
すべてタイマー管理で、均一な染め物が生まれる仕組みになっているのだとか。
取材中に何度もあがったり下がったりする布。また機械が動作するときの音がいい。
動画はこちら。
染められた布は天日干しされ、翌日さらに黒さが定着するような特殊処理を施されます。この部分が京都紋付の真骨頂、他社には真似できない部分ですね。基本的には化学の世界で、染める液も定着させる液も、長年の研究の末に生み出されたものであるそうです。
ちなみに紋付きなので、家紋を入れる部分があり、そこは「メンコ」と呼ばれる紋糊によって染まらないようにし、白く残します。この糊をはがすのにも職人の技術が求められるそう。そりゃそうだ「すれ」が気になるシルクから、どうやって糊を落とすの?って話ですよね。
最後に伸ばしながら乾燥させると、深黒の反物が完成。
こちら、深黒染めの布を和装にしたもの。黒い。本当に黒い。心地よいほどに黒い…!
一方で次は洋装の深黒染めを見学。
様々な方法を試した結果、結論として、この大型ドラム式洗濯機のような機械で、回しながら深黒染めの液をかける方法に辿り着いたそう。もちろん機械は特注品。染めるための液も長年の研究から開発されたもの。
ちょうど「いとやのタオル」が染められて天日干しされていました。く、黒い。
深黒は「深い黒」と書きますが、本当に黒さが深みを持っていて、まるで光が吸い込まれていくかのような錯覚に陥ります。髪の毛でもここまで黒くはならないのでは。
とにかく「黒」に対して誇りを持って仕事をされているのが特徴的でした。
あなたの服も黒く染める!
さて、そんな京都紋付が実施している興味深い取り組みがこちら。家庭の服を送ると、深黒染めして返してくれるんです。もちろん有料ですが、思いのほか安く、色あせや染みなど、色の劣化によって切れなくなった服を黒くするのは、面白いなと。
特に興味深いのが、染色液の性質により、化学繊維が染まらないという性質を利用しているところ。
例えばこちら、服自体は綿なので深黒染めされていますが、縦糸やボタンホールが化繊のため白いままです。ボタンもプラスチック製のため、染まりません。これは本当に面白い。
こちら、よーく見るともともとの柄が残っています。「黒く染まるんじゃ無かったの?失敗???」いえいえ、こちら綿と化繊との混紡だったため、化繊の割合のぶんだけ染まらなかったんです。面白すぎる。このように、混合素材の場合は「染めてみないとわからない面白さもある」とのことでした。
ちなみに受け付け重量に応じてWWWFに寄付を行うという活動もやっていて、リサイクルや環境保全に力を入れているとのことでした。なぜWWWF?かと思ったんですが、そうか、パンダは白黒だからか(笑
こちら、今回取材に対応してくれた社長の荒川さん。大変きさくな方でした。日本の伝統文化って先細りしているイメージがとても強いのですが、こういった「攻めている」企業のことを知ることができると、なんだか元気になりますね。
ちなみに昔は100社以上あった黒紋付の会社は、今では14社ほどに減ってしまい、ほぼ個人事業主レベルになってしまったんだとか。この業界か消えてしまうと、歌舞伎などの衣装を作る会社がなくなってしまう。そのため、生き残ることがひとつの使命だと思ってがんばっている!という強い意志を感じました。
ちなみに洋装のブランドも展開していて、初期に開発されたというこのデニムなど恐ろしいほどに黒くてびびりました。僕はデニムが好きでかなりブラックデニムも見て来ているとおもいますが、こんなにフラットに黒いのは初めて見ましたよ。
のりおのまとめ
まさかこの世に黒く染めることだけの業者があるとは思いませんでした。でも確かに日本という国の文化を考えたら必要な仕事ですよね。自分たちのポリシーのため黒を追求し、生き残りと未来のために洋装の黒染めにもチャレンジしているところが、ものすごいなと。次々と新しいことにチャレンジしていく姿はかっこいいものがありました。
落ち着いたらうちにある服も黒く染めてもらおうかと思っています。
京都紋付
取材協力
今回の取材は、記事広告でおうかがいした「いとやのタオル」こと旭紡績さんのご好意で、黒いタオルを染めている京都紋付さんにも行かせてもらったものです。ありがとうございました。いっぽうで本記事は記事広告ではありませんので、改めて明記させていただきます。
いとやのタオル取材の記事はこちらです。