【山崎倶楽部】2018年、山崎蒸溜所の今をプレミアムセミナーから。

お酒,工場見学イベントレポート,ウイスキー,サントリー,サントリー(Suntory),シングルモルトウイスキー,山崎,山崎蒸溜所,蒸溜所

yamazaki-Premium

僕のライフワークのひとつに、ウイスキーの蒸溜所めぐりがあります。とにかくシングルモルトウイスキーが好きで、21歳の頃からひたすらバーに通い、ウイスキーを飲み、勉強し、そして各地の蒸溜所へと訪問するということを続けています。

特に思い出深いのが、サントリーの山崎。なんといっても、僕が初めて飲んだ国産のシングルモルトウイスキーです。そんな山崎蒸溜所のファンの集い「山崎倶楽部」にて開催された「山崎倶楽部プレミアムセミナー@山崎蒸溜所」に参加してきましたので、こちらをレポート。山崎蒸溜所に行ったのは、実に7年ぶりでした。昨今のウイスキーブームで変わってしまっていることはあるのでしょうか?

工場長と廻る山崎蒸溜所

山崎倶楽部プレミアムセミナー2018今回のイベントは、工場長と廻る工場見学の第1部、サントリーに所属する国内有数のウイスキースペシャリストである佐々木さんと楽しむテイスティングセミナーの第2部、そして懇親会の第3部という3部構成になっていました。

ということで、まずは現工場長の藤井敬久さんと普段は見学できないところも含めた工場見学に行きます。

山崎倶楽部プレミアムセミナー2018こちら藤井さん。今回のイベントがすごいなあと思ったのは、僕みたいに遠方から参加(当然ですが自腹です)の人が何名かいたこともそうですが、なにより山崎蒸溜所に来たことのある人しかいなかったこと。つまり、全員がコアなウイスキー(山崎)好きです。そんな空間なかなか無いよ(笑

なお最も遠いのが僕(埼玉)か、沖縄の方かというところでした。正直なところ、スコットランドに比べたらめっちゃ近いです。

山崎倶楽部プレミアムセミナー2018

すでに全員が訪問済みということで、蒸溜所の紹介そのものは簡単に。とはいえ、このスライドははじめて見ました。山崎で作る多種多様な原酒を紹介したものです。ここだけで30種類の原酒が紹介されています。

山崎蒸溜所を訪問した後に、僕も何度か世界の蒸溜所を訪ねることができましたが、行けば行くほどこのシステムは特異というか、珍しいということがわかってきています。だいたい単一の蒸溜所では1つの原酒、あっても数種類の原酒程度で、ここまで細かくいくつもの原酒をつくっている蒸溜所はとても「希」です。山崎蒸溜所は、単一蒸溜所から生まれた原酒にて構成される「シングルモルトウイスキー」でありながら、多様な原酒をバッティングできるという強みを持っているわけですね。とはいえ、最終的に生み出される「山崎」の名を冠したものは、基本的にベルベットのような口当たりと濃厚なアロマを持つ、山崎らしいウイスキーになるのだから、ウイスキーの味わいづくりの世界は深いと思うわけです。

さて、ウイスキーのことになるとついつい書きすぎてしまうのでまったく進まなくなりそうですが、工場見学本編は簡単にスキップ。というのも、今回は通常の工場見学ではみることのできない、体験できないことが多く、そちらは掲載することができないとのこと。なんで今回は、2011年当時の写真を載せておきます。

糖化

サントリー山崎蒸留所 見学
山崎蒸溜所(2011年当時)

まずは仕込み(糖化)段階での麦汁の味見をさせてもらいました。これは海外の工場ではとてもよくあるのですが、国内だとなかなか体験させてもらえないことの一つです。

余談ですが、海外の場合糖化槽から直接麦汁を汲み、ダイレクトに回し飲みしてから、残りを糖化槽へ戻すことがあって「ちょ(笑」と思うことがあります。「蒸溜したら同じだよ!」という言い分は最もなんですが、日本だとなかなか考えられない光景なのでちょっとビックリしますね。

味わいはほとんどビールのそれ。そうなんです、実はここまではビール造りとほとんどいっしょなんですね。

 

発酵

サントリー山崎蒸留所 見学
山崎蒸溜所(2011年当時)

次に発酵槽を見学。これも通常ならガラスの向こうを見るだけなんですが、今回は特別に発酵時間別の発酵槽を見比べさせてもらいました。発酵がはじまりたてのものと、規定の60時間を迎えようとするものとではまったく香りが異なり、この発酵という工程の不思議さを感じることができます。ちなみに山崎では、木桶の発酵槽とステンレスの発酵槽を両方所有しており、作りたい味わいで使い分けています。これも他の蒸溜所ではめったに見られない独自のというか、とても贅沢なスタイルですね。この山崎だけで、本場スコットランドの小さな蒸溜所をいくつも兼ね備えたようなことができちゃうわけです。

蒸溜

サントリー山崎蒸留所 見学
山崎蒸溜所(2011年当時)

次にはお待ちかねの蒸溜釜(ポットスチル)を。山崎が山崎たるゆえんはほぼここにあって、初溜釜、再溜釜を合わせて8組の16機、しかも全ての組が別々のスタイル(形状)という、本当にもう驚きの設備を備えています。通常の蒸溜所では、初溜釜、再溜釜は2から3組くらいで、同じスタイルのものを複数組というパターンが多いのですが、しつこいですが山崎の場合は8組もの蒸溜釜を備えていて、先の通りの多様な原酒の生産に対応することができています。いままで僕の訪問した蒸溜所では、アイラ島のラフロイグ蒸溜所が同じような規模だった覚えがありますが、こんなにも多様な釜ではなく、やはり同一の組み合わせを複数設置しておりました。

Laphroaig Distillery #夢見た英国文化
ラフロイグ蒸溜所

さらにさらに余談ですが、僕がラフロイグ蒸溜所に行ったときはちょうど100周年を迎える前日で、雰囲気にはお祭りっぽさが。そこで目にしたのがこの光景。

Laphroaig Distillery #夢見た英国文化
ラフロイグ蒸溜所

そう、実はラフロイグ蒸溜所にはサントリーが出資をしています。当初は、そういう関係だから通例的にサントリーの旗を掲げているんだろうなと思っていたんです。が、見学ツアーに行ってみると「お前は日本人か!サントリーは俺たちの蒸溜所を支えてくれているが、味わいについては口を出さない!伝統をリスペクトしてくれる素晴らしい会社だ!オレは日本人が大好きだ!」なんてことを言われるわけですよ。本場まで行って、こんなこと言われたら泣きますよ。ちなみに「なんで山崎の酒を持ってこないんだ!(笑」みたいなことも言われました。山崎蒸溜所のウイスキーは聖地のアイラ島でも(主に蒸溜所で働く人たちに)大人気でした。これ、各蒸溜所で言われたので。

話が逸れまくりましたね。

なお蒸溜釜は激しく沸騰する原酒に少しずつ削られ、だいたい20〜30年で寿命を迎えるとのこと。この日も、ちょうど入れ替えられたばかりのものがいくつかありました。

釜による味の違いは、釜そのもののサイズおよび釜の先端の形状に左右されます。

サントリー山崎蒸留所 見学
山崎蒸溜所(2011年当時)

これも2011年の写真で恐縮ですが、例えば手前のものは釜がスッと上にのびたあと、水平に管が伸びているのに対して、最もおくのものは釜の途中にくびれがあります。

サントリー山崎蒸留所 見学
山崎蒸溜所(2011年当時)

こちらも2011年当時のものですが、管の角度がそれぞれ違っているのが見て取れるかと思います。これら形状の違いが、蒸溜時における成分の抽出に影響し、たとえば味の重さ、香りの強さ、良い意味での雑味の量などを左右させます。これはアルコールの沸点が80度と水よりも低いことなどを利用した仕組みで、角度や形状の違いはその冷却などに影響を及ぼし、それが結果として成分の抽出量を変化させるんだそうです。このあたりはけっこう難しいので、サントリーさんの記載を引用させてもらいます。

 

高さ:高さによってウイスキーのタイプがかわります。
比較的すっきりしたものと、厚みのあるものとに分かれます。
一度液体が蒸気になって上がりますが、その中の一部の蒸気が管壁に触れて液滴になってもう一度落ちます。その度合いが高さによってかわってくるわけです。
つまり、かぶとの高さが高いほどアルコールを含んだ蒸気に含まれる香味成分が冷却機で凝縮する前に釜の中に落ちてしまうので、よりすっきりしたキレのよいものができるというわけです。
高さが低いと、釜の中のモロミなどの特徴香を残したタイプのものになり、どちらかと言えばキレというよりも厚みを持ったタイプになります。
様々な成分を含んだ気化されない小さな液滴が蒸気と一緒に飛散することも観察され、これが厚みのひとつの要素になるわけです。

形:ストレート系の蒸溜釜の内部では、蒸気は層流になって上がっていきます。
窪みがあるタイプの蒸溜釜の内部では、蒸気と釜との接触面積がふえ、回り込みができて蒸気の乱流状態ができます。さらに蒸気の上がる速さが変わり、外界との接触時間がふえるので、蒸溜釜が高い場合と同様に蒸気に含まれる香味成分が釜の中に落ちる割合が増えてきます。

WHISKY MUSEUM ウイスキーを知る 蒸溜の話 蒸溜とウイスキーの味との関係

率直にサントリーすごいな、って思うのは、こういうコンテンツをしっかり作っていることですよね。

さて、話を見学に戻すと、最後に貯蔵庫の見学。ここからは撮影がOKになりましたので、2018年の写真に戻ります。

貯蔵

山崎倶楽部プレミアムセミナー2018

ずらっと並ぶ樽の数々。思えば、2011年当時はまだ樽が個人で買えました。それも、10人くらいいれば手が届くような価格にて。なぜそこで投資をしなかったのか。悔やまれます。

ちなみに面白い話としては、見学者があまりにも自分の生まれ年の樽を探してしまうので、ここには若い樽だけを置くようにしているのだとか。あるある、ですね。

山崎倶楽部プレミアムセミナー2018

藤井さんから定番である「天使の分け前」のお話。ウイスキーは数年から数十年の熟成を重ねていくうちに、気化などによって少しずつ樽内の液面が下がってきます。と同時に樽の個性もウイスキーに移っていくわけですが、あまりにも液面が下がると影響が大きく出すぎてしまうので、ある程度のラインを超えた場合、複数の樽を新たな1つの樽に詰め直すことがあるそうです。これは知らなかったのでビックリ。その場合の樽ナンバーはどうなるのか?と質問をしたところ、元々の樽ナンバーを履歴として残しつつの、新樽ナンバーが発行されるのだとか。これは面白い。シングルカスク(単一樽からのウイスキー)だけどバッテッドされた樽が生まれるわけですね。当然ですが扱いとしては最終的に樽から出された時の番号によるシングルカスクになるのだそうです。面白い!

最近ではこの山崎蒸溜所の樽を使って、梅酒を作ったり、ビールを作ったりと面白い試みが行われていますが、それも全てこの蒸溜所が高いレベルでの生産工程をこなしているからなんだなあ、ということが良くわかりました。ここまで手をかけたなら、色々なことにも応用したくなりますよね。

 

のりおのまとめ

さすがに7年も間をあけてしまうと、山崎蒸溜所の進化っぷりが目に付きました。実は7年前はまだ蒸溜釜は6組だったはずで、今よりももう少し小規模だったはず。ちょうど当時の記事がありましたので引用しておきます。

今回山崎蒸溜所に新たに導入されたのは単式蒸溜釜(ポットスチル)4基(初溜・再溜各2基ずつの2対)。現在稼働しているのは6対12基なので、合計で8対16基となる。これによって生産量は現在の約4割増になるとの見通しだ。山崎蒸溜所では2006年に改修を行い3対6基が新しくなっているが、増設は1968年以来、実に45年ぶりなのだそうだ。

山崎蒸溜所 新蒸溜釜設置工事開始 | WHISKY Magazine Japan

世のハイボールブーム、からの世界的なウイスキーブームを受けて、山崎蒸溜所も増産を続けてはいるのですが、そこは出荷までに10年ほどの時間がかかる業界です。10年後を見据えたとき、どれくらいの量を作れば未来の需要が満たせるのか。もちろん作りすぎるわけにもいきませんし、なによりクオリティが落とせませんから、これはウイスキーという世界にとっては大変に難しい計算と、判断が必要になってくるわけですね。

山崎倶楽部プレミアムセミナー2018僕が見た限り、山崎蒸溜所は世間がウイスキーを見る目をしっかりと理解し、そしてファンの需要に応えるため、とてもがんばっているように思えました。いまはなかなか購入するのも難しいような状況になってしまってはおりますが(とはいえ実際の出荷量はずっと一定なんだそう)、そう遠くない将来に、また気軽に山崎のウイスキーを楽しめる世界がくるのではないかなあと楽観的に待つことが大事なのかもしれません。

ということで、実はまだ2部と3部の話があるのですが、恐ろしいほど長くなりそうなので、以降は次回に続きます。

山崎蒸溜所/山崎倶楽部

シングルモルトウイスキー山崎 サントリー

山崎倶楽部 シングルモルトウイスキー山崎 サントリー