Modern Beauty展 ポーラ美術館で芸術とファッションの深い関係を学ぶ【箱根応援】 #mb展
箱根の誇る文化施設「ポーラ美術館」で開催されている「Modern Beauty展」。こちらで語られているのは、有名な作品やそれを生み出された時代背景から見えてくる、ファッションと芸術の関わり合いです。もしほんのわずかでもファッションに興味があるのなら、興味を抱かずにはいられない!この企画展をプレスツアーで見て来ましたので、写真中心にてご紹介します。もちろん第2の地元でもある箱根を応援する意味合いも含めて。
ポーラ美術館とは
そもそもポーラ美術館とは、箱根の仙石原の山中にほぼ「埋め込まれて建築された」という建築だけでみても圧巻の施設。贅沢なコレクションによる常設展や、今回のようにユニークな企画展も魅力ですが、建築だけでも楽しめるという、希有な美術館のひとつです。
その豪快かつ美しすぎる外観は別途紹介するとしまして、今回はModernBeauty展について。なお、以下には有名な絵画や作品の写真がこれでもかと登場しますが、こちら、ポーラ美術館さんが特別に今回は撮影およびその公開を許諾してくれたものです。こんな太っ腹なプレスツアー、日本ではなかなか見ませんよね。ポーラ美術館さんの英断に感謝しつつ、レポートをすすめます。
絵画とファッション
さて、今回のModernBeauty展とは「フランスの絵画と化粧道具、ファッションにみる美の近代」と題されたとおり、絵画を軸にしつつその化粧道具やファッションによってサイドストーリーが追いかけられるという、さすがポーラというか、なんとも贅沢で絶妙な企画です。
そもそもですが、普段僕らが目にしている中世から近代の絵画というものには、当然ですが当時のファッションが詳細に記録されています。例えば中世、女性はみなコルセットに大型のスカートを持つドレスを着ていました。その姿を見るだけで、この画は中世だとわかるわけですね。一方で近代にくると、女性はより自由な服装となり、そのポージングひとつをとっても様々なバリエーションを見せてくれるわけです。
そして、それは作品を作る芸術家側にも様々な変化を求めることにつながります。
たとえばこちらが、今回の美術展のキービジュアルとなっている、エドゥアール・マネの「ベンチにて」という有名な作品です。
実はこの作品、油絵が主流であった当時にも関わらず、パステルで描かれています。なぜ、マネは油絵の具ではなく、パステルを手に取ったのか。それは女性に「化粧」が流行したからです。
マネは、1870年代末から歿するまでに90点近くのパステル画を残しているが、そのうち70点以上が女性の胸像であった。油彩よりも色彩が明るく、なめらかでマットな画肌を作り出すことができるパステルは、女性のやわらかな肌の表現に適しており、マネも意識して用いたと思われる。
展覧会概要 | Modern Beauty展 | ポーラ美術館
と解説にもあるとおり、マネは化粧のふんわりした空気感や透明感を描くため、重く厚塗りとなる油絵の具ではなく、パステルを使ったわけですね。そういった基本的なサイドストーリーを知るだけで、この作品の持つ意味や意義というものがありありと見えてくる、というのがこの美術展の楽しみ方になっています。
折しも作品が描かれたとされる1,881年、つまり19世紀は、産業革命があったり、情報流通がはじまったりと、モードという観点からすれば大変に重要な時代。さらにさらに、ここから第一次世界大戦を経て、女性のファッションの解放へとつながっていく大きなうねりも生まれます。
そんな一時代を絵画や美術作品を中心に語るのがModernBeauty展の面白いところ、と僕は理解しました。
様々な欲望とチャレンジの世界
19 世紀 以降の画家たちに影響を与えた美術批評家で詩人のシャルル・ボードレールが、芸術において移ろいやすいものや一時的なもののなかにある「近代性」(モデルニテ)を描くことを称揚したことで、時代ごとに変わりゆく都市風俗は新たな絵画 の主題となりました
と開催概要にありますが、これってまさに現代の「ファッションフォト」の世界と通じるものがありますよね。モードを紹介したいという気持ち、最先端を紹介したいというチャレンジ精神、そしてモードを作り出したいという欲望。その全てがModernBeauty展には含まれていました。
その最たるものがこちら。
↑「レース帽子の少女(1891)」 ↓「髪かざり(1888)」
どちらも超有名なルノワールの作品ですが、両者を見比べるとあることに気がつきます。あれ?服が…同じ?
実はこれ、ルノワール自身の指定した服なんです(と言われている)。なんでもルノワールは仕立屋の父とお針子の母という裁縫一家の出で、その影響から、モデルの衣装にはなみなみならぬコダワリがあったんだそう。そんなわけで、このドレスはルノワールの指定もしくは所有物で、わざわざそれを着せた作品を作り出したというのが、現代の解釈なんですって。
これってなかなかに興味深くて、ルノワールとしては「この服を着せて描きたい!」と思っていた訳ですよね。つまりそれはファッションスタイリストですよ。一方で絵画は当時のモードを伝えるひとつの手段となっており、そして当然ながらルノワールはその絵画の描き手。つまり記録し、伝える側の人間でもあります。
ファッションスタイリストでもあり、いまでいうファッションメディアの編集長でもあり、ファッションを記録するカメラマンでもある。そう、ルノワールその人自身が、モードの作り手として機能していた、なんて想像してしまうのは考えすぎでしょうか。
でも、それくらいに面白い話として僕は解説にうなずいてしまったのです。やっぱり企画展における「ある視点」からの解説の面白さって間違い無いですね。
ModernBeauty展を歩く
最後に、現地で撮影した展示物をさらっと紹介しておきます。
↑こちらの作品に描かれている服を、↓文化学園服装博物館の協力で再現展示しています。これはいいね。
化粧が流行したことで、化粧のための化粧品の容器や化粧道具も発展しました。この頃の瓶といえば、僕の大好きなラリックも出てきます。
↑市民の入浴が一般化。それに伴って ↓入浴道具(風呂桶)が作られました。
↑ティファニーのランプシェード。虫がモチーフになっているのは実にアール・ヌーヴォー的です(よね?)。
なかなかに見応えのある企画展でした。なにより、絵画作品だけで無く、化粧道具や生活用品にまで踏み込んでいるところが、文化的背景の理解を手助けしてくれるため、満足度が高いです。
これはいいなあ。ということで、家族を連れてもういちど来る予定。
以下は常設展示作品です。ポーラ美術館はこんな作品も展示しているのですね。
そうなんです、睡蓮も所有しているのです。最近睡蓮を再現したという観光地を何度か見かけたので、なんとなく懐かしい。
(余談)平山郁夫作品での実験的試み
さて、今回のレポートとしては余談となりますが、現在ポーラ美術館では平山郁夫作品を使って実験的な試みをしています。
ここ、何をしているかといえば、靴を脱いで寝転がってくつろげるスペースを作って、そこに大型作品を展示し、普段とは違った角度・姿勢・気持ちで絵画を楽しもうというものです。こちら「イラン高原を行く(1995年)」です。
今回特別に許可と手配を頂いて、写真を公開しております。このブログに掲載できるのは2年後まで。
人が入るとこんな感じ。ここはとてもいいですよ。ここだけで15分ぐらい使って欲しいくらい、まったりと作品鑑賞できます。これ、ほんといい企画なのでもっとやって欲しいです。まるで誰かの家に絵画鑑賞のために訪れた、みたいな空気感があります。
のりおのまとめ
もともと妻がこの企画展に興味をもっていたこともあり、今回のプレスツアーに参加できたのはなんともラッキーでした。今後も様々な企画を行いつつ、企画としては9月4日(日)までの開催を予定しているとのこと。これから新緑の季節になり、箱根は大変にここちよい空気に包まれますので、ぜひとも、箱根観光とともにポーラ美術館でModernBeauty展を楽しんでもらえればと思いました。
がんばれ箱根!
ポーラ美術館/ModernBeauty展
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