日帰り温泉の常識を打破!「おふろcafe utatane」が閉店物件を見事にリノベして繁盛させた秘密とは?

2016/01/21さいたま市(大宮/浦和など)の記事utatane,カフェ,利用者,大宮,宮本,温泉,独自取材

おふろcafe utatane

大宮の新名所「鉄道博物館」から徒歩10分のところにある、スーパー銭湯とも漫画喫茶とも、はたまたビジネスホテルとも言えないような、不思議な施設「おふろcafe utatane」。長年営業していたスーパー銭湯が閉店し、1年間以上「空き」になっていた物件を見事にリノベーション、繁盛店として復活させたその秘密を、支配人の宮本さんにうかがう機会があったので、以下まとめておきます。こちら独自取材となります。

いわゆる「(1年間もの)閉店物件」が見事に生まれ変わった

この「おふろcafe utatane」の場所には、元々「極楽湯」というスーパー銭湯がありました。しかし、周辺に次々と日帰り温泉がオープンした影響もあり、2007年に閉店。さらにそれを居抜きで引き継いだスーパー銭湯兼宿泊施設の「大成鉄道村」も、2012年に5年間の営業期間を持って閉店しました。この経緯と建物は地元民にとって有名なもので、極楽湯時代から常に「古くさい」「パッとしない」というイメージが強く根付いている、いわゆる「いわくつき」な施設なんですね。そんな施設を居抜きで使っているわけですから、当初は「またまた〜」と軽視していたわけです。

おふろcafe utatane
こちらがおふろcafeの入り口。建物のたたずまいは以前のままで、昔を知っていればいるほど、先入観にとらわれそう。

 

ところがところが、実際には「おふろcafe utatane」になってからずいぶんとイメージも変わり、気がつけば雑誌やテレビの取材がくるほどに話題の施設となっている様子。そこまで大きな改修をした様子もないのに、これはいったいどういうこと?

そのあたりの秘密を、支配人である宮本さんに取材させてもらいました。

 

20〜30代を狙い撃ちしたいままでにない銭湯

正直言ってこの施設、よくここまで復活させたな…というのが、地元民のイメージです。そもそもここを選んだ理由を教えてもらうと、それは意外にも「宿泊施設がついていたからです」(宮本さん)とのコメントでした。

「実は宿泊施設だけでも運営していけるイメージがあったので、この施設を選ぶことにしたんですね。極楽湯時代の銭湯だけの状態では、おそらく選ばなかったんじゃないかなと」(宮本さん)

それはなんとも驚きです。聞けば、宿泊施設は95%ほどの稼働率を誇っていて、既に「予約でいっぱい」レベルなんだそう。面白いのが利用者の住み分けで、お風呂の利用者と宿泊施設の利用者はまったく異なる層になっているとのこと。これはますます不思議な施設ですねえ。

おふろcafe utatane
部屋はビジネスホテルのそれとほぼ同じ仕様となっています。普通の宿泊施設、ですね。

 

おふろcafe utatane

なお、ここで少し注記を入れておくと、実はこのおふろcafe、いままでの経緯によって「くつろぎゾーン」「お風呂ゾーン」「宿泊ゾーン」の3つのゾーンによって構成されているのですね。具体的には、施設1階のほぼ全域が「くつろぎゾーン」、1階最も奥が「お風呂ゾーン」、施設の2階以上が「宿泊ゾーン」となっています。宿泊者は全てのゾーンを利用でき、お風呂/カフェ利用者は1階までの利用となります。

 

気になる利用者層ですが、まず宿泊施設についてはビジネスマンや、さいたまスーパーアリーナなどでライブに参加した人が主なユーザーなんだとか。実は大宮ってホテルがとても少ないので、単に普通の宿泊施設として予約が入っているという話です。確かにこのおふろcafe、いわゆる有名どころの宿予約サイトではだいたい掲載されているんですよね。そういった意味では、特になんの変哲もない宿として利用している人もいるわけですね。

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たとえば楽天トラベルから予約可能なのがわかります。

 

お風呂/カフェの利用は、20〜30代が中心。男女は半々だそう。そもそも施設として、いままでスーパー銭湯が狙ってこなかった『20代後半から30代前半の会社員』狙いに振り切っているそうで「狙い通りの利用者が訪れている」(宮本さん)とのこと。

一方で朝10時から翌朝9時までの23時間営業という仕様も手伝って、ご近所のお年寄りが朝風呂として利用しにくるケースもあるとか。若者ばかりに使われているということでもないようですね。確かに、早朝から大きなお風呂、しかも(運び湯とはいえ)温泉に入れるのは嬉しいですよね。一人暮らしだとお風呂を沸かすのもおっくうで、この使い方もすごく良くわかります。

 

マンガと書籍でメインユーザーを調整

おふろcafe utatane
平日にもかかわらず、おふろcafeにはたくさんの若い利用者が訪れています。しかもまったりと過ごす人ばかりで、よくある日帰り温泉施設で見られるような、ファミリーやお年寄り、飲み会のような利用者なんかはほとんど見かけません。この雰囲気と、客層の安定感はどうしたことでしょう。

実はこのおふろcafeでは、置いている書籍・マンガを調整してこの利用者層を作りだしています。例えば20〜30代女子によく読まれているという、旅行書籍の「ことりっぷ」が全巻揃っていることなんかが象徴的です。これを揃えている温泉施設って、全国探してもそうそうないのではないかなと。同年代男性が読みそうなビジネス書なども厳選して取りそろえ、実際よく読まれているようで手ごたえはあるとのこと。取材させてもらったこの日も、それら書籍はよく読まれていました。よく読まれているということは、その書籍のターゲットが実際に施設を利用しているということ。確かに書籍ってそれぞれターゲットとしている層が明確なので、こういった使い方にも威力を発揮するのかもしれません。これは勉強になる…!

一方マンガについては、オープン当初たくさん置きすぎてしまったため、高校生が大量に利用するという想定していない状況となってしまったとのこと。実はこの頃の様子については僕も知っていて、おふろcafe利用経験者に「どんな感じ?」と聞いたら「マンガ喫茶だよ」と言われたことがありました。まさに、ですね。

 

が、その後タイトル数を厳選し、例えば刺激的なものよりも、まったりしたもの、大人向けのじっくり読めるタイトルなどへと入れ替えることで、ちょうどよく今の客層へとスライドさせることができたそうです。マンガのタイトルの取捨選択には本当に気を使っていて、宮本さんやマンガに思い入れのあるスタッフが悩み抜いた末に、設置するものを決めているのだとか。実際、有名1タイトルの有無で客層の流れが変わることもあるんだそう。これはものすごい話ですねえ。確かに、街の中華料理屋とかで「あそこはジャンプ置いているから行こう」みたいな経験、僕にもあります。どんな雑誌が、マンガが置いてあるか、地味に重要なんだなあ。

おふろcafe utatane

そんなわけで館内には至るところにマガジンラックとイスがあり、自由に使うことができます。特にカフェや暖炉の周辺では、思い思いの体制でマンガを読んでいる利用者が印象的でした。

 

おふろcafe utatane

ポップひとつにも気を使っていて、とにかく落ち着く雰囲気を出せるよう、統一感につとめているのだとか。また入り口に施設の象徴でもある暖炉を持ってきて、そこで利用者がくつろげるようにしているのは、入ってすぐに『こんな施設です』というメッセージを伝えるためなんだそう。これは本当にインパクトあって、メッセージ性は確かに感じます。

 

おふろcafe utatane

この暖炉はほんとうにいいですね。夏場にはどうなっているのか気になるところですが、少なくとも今の季節は、ずっとここにいたいな…と思わせるほどの魔力があります。

 

もちろんBGMにもこだわっていて、よくある業務用の音楽サービスではなく、音楽に造詣の深いスタッフが厳選したものを流すようにしているそう。とにかくおふろcafeでは、館内の雰囲気をコントロールすることに心血そそいでいるのが良くわかりました。率直なところ、ここまでターゲットを決めて雰囲気を調整している入浴施設、聞いたことありません。

 

おふろcafe utatane
こちら若者のちょい飲み需要も満たせるセルフのワインバーマシーン(日本酒もあり)。100円からという破格の価格設定にも驚きです。イベントスペースも解放されていて、時にDJイベントなどが開かれることもあるんだとか。

 

驚きの「競合相手」とは?

さて、マンガや書籍のタイトルやBGM調整によって、客層が変えられるというのにはビックリしつつも、聞けば聞くほど説得力があって、とても納得してしまいました。一方で気になるのは、なぜ20〜30代を狙おうと考えたのかというところ。一般的には、お風呂とその層がどうしても僕には結びつきません。マイノリティー狙いになっちゃう印象です。

ところが回答は大変にシンプル。つまり単純に「周辺の競合施設がやらないことをやろう」(宮本さん)と考えたらこうなったと。とにかくこの施設の企画は既存の施設に比べて逆張りで、いままでスーパー銭湯や日帰り温泉施設がやらなかったことを次々と取り入れるようにしているのだとか。

そもそも考えてみると、スーパー銭湯って、入場料金払った後はなるべく早く帰ってもらった方が良いという、回転率に依存するビジネスです。一方でおふろcafeではとにかく長居してもらうことを追求しているわけで、ビジネスモデルがまったく違うわけですね。モデル的にはマンガ喫茶と健康ランドのいいとこどりな印象でしょうか。

そんなこともあって「周辺の日帰り温泉施設とお客さんの奪い合いにもなっていなくて、驚くほど上手に住み分けができている」(宮本さん)という驚きのコメントも。むしろこの施設によって温泉に目覚めた人がいるぶん、多少は送客できているのではないかな?とのことでした。

 

おふろcafe utatane

とはいえ、こういった時間とお金を消費する施設ですから、競合はあります。それはアミューズメントパークなんだそう。

「なぜかといえば、遊園地に行く予定のお客さんが、雨だからうちの施設に予定を変更した、みたいな話を良く聞くからです。1日定額で遊んで、ランチを食べて、場合によっては夕飯も食べて、となると、だいたい使う金額が同じくらいになるみたいですね」(宮本さん)

温泉施設のライバルがアミューズメントパークってのは目から鱗です。つまりおふろcafeって、ユーザー心理としては「1日つぶしに行こう」ってことですよねえ。僕のイメージでは、日帰り温泉施設って滞在したとしても3時間くらい。1日つぶすなんてのは想像できません。でも、実際おふろcafeのユーザーは、1日つぶしているんです。

おふろcafe utatane
長居する際のポイントであるカフェめしも、リーズナブルな上においしいという隙の無さで長時間滞在を後押しします。

 

そもそも従来の温泉施設って、どうしても温泉などのスペックで勝負しているところがあったと思うんですよね。効能がどうだ、○○湯がどうだ、と。でもこちらの施設の場合は、そこで勝負しようとはなから思っていないわけですね。

つまりおふろcafeとは、おふろと言いつつ、それはメインコンテンツではないと。考えたらお風呂って1度作ってしまったらそこに改善を入れていくのが難しい「大きなハード」です。でもおふろcafeのメインコンテンツである「居心地」は、あくまでソフトによるもの。ソフトによるものは、いくらでも調整が効きますし、トライアンドエラーもやりやすい。これは失敗しにくいビジネスモデルになっているんだなあと感銘を受けてしまいました。高校生が多かった状態から簡単にスライドしている事実こそ、まさにそれですよね…。聞けば聞くほど興味深い施設ですね。大宮での成功を受けて、2015年の11月には静岡にフランチャイズがオープンしているそうです。全国の老朽化した銭湯をリノベーションする新しい流れが生まれつつあるのかもしれませんね。

 

運び湯の温泉「白寿の湯」は素晴らしい泉質だった


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彩の国の名湯 白寿の湯

最後に、今回の取材であまりにも謙遜されたお風呂部分はどうだったか、というのを体験してきました。結論からいいますと、ものすごい泉質でした。今までたくさんの温泉に入ってきましたが、ここまで濃厚さを感じることができるものは、なかなかお目にかかれません。

おふろcafe utatane

調べてみると、この運び湯は埼玉県神川町の「白寿の湯」というものだそう。このお湯は国内でもトップクラスの温泉成分を誇っていて、あまりの濃さに源泉のままではパイプ詰まりを起こしたりしてしまうほどなんだとか。加水したとしても堆積層を作ってしまうほど。

この濃さは入れば誰でも体感できると思いますので、ぜひお試しを。おふろcafe、温泉はおまけだと思って行くと、やけどしますよ(お湯はぬるめです)。

 

のりおのまとめ

おふろcafe utatane

いやーもっと早く行っておけばよかった感がありありですね。反省します。いままで人に「おふろcafeどうなんですか?」と聞かれていても、いままでの施設がイマイチだったからなあ…という煮え切らない回答をしていましたが、これからは「めちゃくちゃまったりしていて、温泉も濃厚で、良い感じだよ」に変わりそうですね。こんど我が家に遊びにきた人たちとまとまって訪問するかなあ。

なお「utatane」の語源にもなっているうたた寝スペースもありますので、ゆっくり昼寝もできちゃいます。ますます惹かれちゃうなあ。

 

取材協力:おふろcafe utatane

予約はこちら→おふろcafe utatane


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おふろcafe utatane