ハリル監督解任はJFA長期プロジェクト的にもネガティブ過ぎると思うんです
2日間。気持ちを落ち着けるために2日間かかってしまいました。
ご存じのとおり、4年間の集大成になるはずだったワールドカップロシア大会を前にして、日本代表の監督であるハリルホジッチ氏が解任されました。
はっきりいって、こんなにネガティブな解任があっていいのかと絶望するレベルです。仮にもJFAの末端に所属する公認コーチのひとりとして、悲しさでいっぱいですよ。
次の大会うんぬんはミスリード
そもそもですが、日本代表の強化というのは、次のワールドカップで良い成績を残すために行われているわけではありません。では何の為に?それは、2050年までにワールドカップで優勝するため、です。これはJFAの公式サイトにおいても明確に宣言されているものです。
最初に認識しなくてはいけないのが、この目標下では、次のワールドカップで良い成績を納めることよりも、将来的な優勝に対して最短距離を取ることが優先して求められるということです。ロシア大会での勝率が数%あがるとか、目先の利益はどうでもいいのです。先日の会見では、まずここでずっこけました。どうなってるんだ…と。
仮にもJFAのトップからあんな発言が出てしまったので、気持ちを落ち着けるのに2日かかってしまったんです。
PDCAを自らぶっこわし
話を続けましょう。
では、その2050年までのワールドカップ優勝のためには何をすればいいでしょうか。いわゆるこの取り組みを「プロジェクト」と捉えたときに、まず間違いなく必要になる作業というのは「目標立て」「チャレンジ」「反省」「リトライ」です(計画、実施、検証、改善ですがサッカーぽく置きかえてみました)。世間的には「PDCA」とも呼ばれる「PLAN, DO, CHECK, ACTION」ですね。
目標(PLAN)は、目的を果たすために必要なものです。これが明確になっていないと、いま進めているプロジェクトがゴールに向かっているかどうかを判断できなくなってしまいます。なので全てのプロジェクトにおいて、目標は絶対的なものになります。今回でいうなら、ベスト16入りでしょうか。
次にチャレンジ(DO)ですが、これは目標に基づいて計画・実施されなければいけません。今回でいうなら、もちろんワールドカップの試合を戦うことです。広く見るなら、4年間がまるごとチャレンジになるかもしれません。
反省(CHECK)は、チャレンジが目標に対してどうであったかを評価するものです。ここで大事なことは「成功か失敗か」はいわゆる結果でしかなく、あくまでその要因を分析し、なぜそうなったのかから、なぜそれが成功なのか、失敗なのか、ということまでを明らかにして、その上で目標に対して近づく次の一手を考えることです。今回でいうなら、大会後に大会の内容および4年間を評価することがこれにあたるはずでした。
最後にリトライ(アクション)では、反省にもとづいた改善を実施します。今回でいうなら、次の4年ですね。逆にいうと、この4年間は前大会の「改善」だったわけですね。
かなりざっくりとした説明にしましたが、これがいわゆるPDCAで、シンプルなプロジェクトのまわしかたです。実際にはPDCAでなくてもプロジェクトは進められますが、JFAも自ら「計画→実施→効果検証→改善(=PDCA)」という言葉を中長期のプランニングで使っていますので、基本的には同協会もPDCAを意識したプロジェクトマネジメントをしていたと推察します。
少なくとも過去8年失った
この考え方に基づいてみると、今回の解任は、完全にこのPDCAサイクルを無視してしまったものと思われます。特に、チャレンジ中にプロジェクトを終えてしまったことが最悪です。これによって、その後行われなければならなかった「反省」という、このPDCAでも最も重要なフェーズを正しく実施することができなくなりました。
とにかく今回の解任騒ぎでは、いろいろなことが議論されていますが、やはり最悪だったのはこの反省ができないという点で、4年間のプロジェクトが評価できなくなり、反省もできなくなり、つまりは4年間での上積みが「ゼロ」ということになります。究極なところ、ワールドカップで全敗でもいいんです。その結果を分析し、次の大会で躍進する糧にできれば良かったんです。前大会の結果を見れば、実際にこの4年間はそうだったはずです。
でも、ハリル監督を解任してしまったことで、このプロジェクトはチャレンジする前に終わってしまいました。今後得られるのは「2ヶ月前に監督を解任した状態でのワールドカップ」だけです。こんな情報、いったい今後にどう生かせというのでしょうか。
それ以前にも、ハリル監督(およびアギーレ前監督)を招へいした理由そのものが、前大会のPDCAに基づく「反省」からの「改善」であった「ワールドカップで実績のある監督に任せる」だったはずです。つまりはですね…今回の解任は4年前のPDCAサイクルも破壊してしまったわけですね。つまりこの時点で、日本のサッカーはこの4年+前の4年である8年を失っています。8年間、何もストックすることができなかった。それが、日本サッカー協会のやったことです。
個人的には、将来も20年くらい失ったと思いますけどね。
大会後の監督選びも困難になるでしょう
他にも影響があるとしたら、今後の監督人事ですね。日本サッカー協会という職場は、今回の件で「大会2ヶ月前のテストマッチでも勝利を求められ、選手との衝突を理由に解雇される職場」と世界へ知らせてしまいました。さらには、監督をフォローしている人物が解任後の後釜に着くという、もはや人事として理解不能な状況にも陥っています。本来なら一蓮托生、監督を解任した時点で役員全員辞職レベルですよ、こんなの。自分を全力でサポートするべき人物が、自分の後釜として席に座る。まともな団体で、こんなことありえますか?
今後の監督を選択できる幅はまず間違いなく狭くなったでしょう。もちろん魅力的なフィーが呈示されるはずで、野心のある監督から手は挙がると思いますが、これから伸びようという後進国が、未来の選択肢を減らしてどうするんでしょうか。本当に、とんでもないことをしてくれました。
JFAの約束
最後にもう少しだけ補足です。
ほとんどの方はご存じ無いかもしれませんが、JFAにはいくつかの「約束」が存在します。中でも今回のものに直接関わってくるのがこちら。
JFAの目標2030 | JFA中期計画2015-2022 | JFA | 日本サッカー協会
2030年までに実現したいことをまとめたものです。
具体的にテキストにしてみると、
・2015年には、世界のトップ10組織となるり、2つの目標を達成する
・2つの目標の内、ひとつは日本代表がトップ10のチームになること
(もうひとつは普及についてなので割愛)
・2030年までワールドカップに出続ける
・2030年までにベスト4に入る
・上記ふたつの目的を達成するため、基盤整備につとめ、世界でトップ3の組織になる
・2018年の目標はトップ20
という感じです。
これを読んで、みなさんどう感じられたでしょうか。
日本のサッカーは、サッカー協会は、きちんとゴールに向かっているでしょうか。
僕にはもうわからなくなってしまいました。
2018年4月9日(月)。いつか、この日のことを笑って済ませられる日が来るのでしょうか。
なお、資料は以下のPDFより引用させていただきました。
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