20年来の夢叶う!ウィーン国立歌劇場来日公演「ナクソス島のアリアドネ」を堪能してきました…![取材]

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思えばまだ高校生であった1994年。ちょうどクラシックにはまりはじめていた当時、吹奏楽部の指揮者だった顧問の先生から見せられたのは、ウィーン国立歌劇場来日公演「ばらの騎士」のチケット。羨ましかったですねえ。

そこから実に22年の歳月をかけて、ついにこの機会を得ることができました。

そう、4年ぶり8回目の来日を果たしたウィーン国立歌劇場来日公演「ナクソス島のアリアドネ(リヒャルト・シュトラウス作曲)」を鑑賞することができたのです。なかなかチケットのとれない同楽団の来日ですが、今回は取材の機会をいただき、観劇することができました。

ウィーン国立歌劇場についておさらいしておこう

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Photo by Wiener Staatsoper/Michael Poehn

 

せっかくなので、最初にこの世界最高の楽団についておさらいしておきましょう。ウィーン国立歌劇場とは、その名の通りオーストリアのウィーンにある、国立歌劇場と、そこをホームとする管弦楽団および歌劇団などの総称として使われています。細かく区分するなら、オーケストラはウィーン国立歌劇場管弦楽団と別の名前を持っています。

あの誰もが知っているウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、このウィーン国立歌劇場管弦楽団の有志による自主運営団体、という定義がされていますので、ウィーンフィルはすなわちウィーン国立歌劇場(管弦楽団)と結びつけても、大きく間違ってはいません。このあたりの細かいところは説明すると長くなるので割愛しますが、歌劇場管弦楽団の希望者が選抜をくぐりぬけてウィーンフィルに採用されることになると言われています。

つまりですね…世界最高のオーケストラを贅沢にも伴奏に使って公演されるのが、このウィーン国立歌劇場のオペラなのです!!!

 

本場のリヒャルト・シュトラウスを堪能!

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Photo by Wiener Staatsoper/Michael Poehn

 

さて、気になる今回の演目ですが、リヒャルト・シュトラウス作曲「ナクソス島のアリアドネ」となります。実はこちらの初演が行われた場所こそ、ウィーン国立歌劇場。まさに本場のオペラを堪能することができる、またとない機会となっていました。

あらすじをかいつまむと、基本的には「楽屋オチ」の喜劇です。ある富豪(貴族?)の家でオペラと喜劇が同時に上映されることになり、それを受け入れられない人、説得する人、外から楽しむ人などの人間模様を楽しむのが、このオペラの醍醐味となっています。あれ、オペラってこんなにコメディタッチでもいいの?とびっくりするくらい、クスリと笑ってしまうシーンの多い作品でもあります。

ちなみにプロローグは別の作品「町人貴族」が元となっていますので、そっちに馴染みがある方もいるかもしれません。

オケピットをのぞいたりしつつ、気がつけば開演時間。席は…本気で満席状態です。さすが数あるクラシックコンサートの中でも群を抜いた人気公演!!

 

ということで勝手に緊張感ある中、公演は文字通り開幕。幕が開いてまず驚いたのですが、なんとも豪華なセット!なんとステージの中にガラス張りの富豪宅ができているではありませんか。しかもドアとか開く本物でした。衝撃的。

いわゆる第1幕にあたる「プロローグ」では、若い作曲家が自分のオペラ作品のシリアスな雰囲気を台無しにするであろう歌劇の一団と騒動を起こします。これこそいわゆる劇中劇。オペラを見に来てオペラの舞台裏を見るというのが、「ナクソス島のアリアドネ」の面白さですね。劇中もどちらかといえば「歌」ではなく「セリフ」や「演技」が中心となっています。

このプロローグで衝撃を受けたのは、やはり天下のウィーン国立歌劇場管弦ことウィーン・フィルハーモニーの伴奏です。なんだろう、音がビロードのようなんですよね。これにはかなり驚き。

たとえば1960〜70年代なんかのメジャーなオーケストラは、それこそ録音で聴いたとしても「あ、この音は」という気づきがあるくらいに、どこの楽団も個性的で、いわゆる「色」がとても感じられました。とはいえそこは現代です。世界中の楽団の色はほぼほぼ薄まってきていて、例えばお国柄的なカラーはありつつも、やっぱり平均化の波からは逃れられていないのです。と思っていましたし、実際そう感じていたのですが、いやはやそこはウィーン国立歌劇場管弦楽団。「違い」があるではないですか。

この日の役割はあくまでオペラの伴奏ですが、1音1音がとにかくキラキラして、粒が丸くて、あくまで「喜劇」であるオペラのイメージを十二分に補完してくれているわけです。指揮者は老獪ヤノフスキ。真面目なイメージがあるので、喜劇にはどうなのかな?と思っていたんですが、やっぱりイメージはイメージに過ぎないですね。なんともチャーミングな演奏に仕立ててきています。いや、真面目がゆえの、この解釈なのかな?

 

そうしているうちに、プロローグは終わり、第2幕にあたる「第1幕」がはじまります。

 

それにしてもまあ、驚きましたね。なんと舞台の中に客席が作られています。設定は富豪宅でオペラと喜劇を同時に上演するこっけいな様が描かれるのですが、出番のない富豪や執事などを、舞台を挟んで客席の反対側に作らせた舞台の中の客席(ややこしい)に座らせ、その一挙手一投足によって演出をするという大胆な設計!なんですかこれは!

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Photo by Wiener Staatsoper/Michael Poehn

 

↑後ろに座っている人たち、見えますよね。ちなみにこちらがツェルビネッタ。

彼らがひそひそ話をしたり、席をうごいたり、突然乾杯をはじめたりして、舞台の間をつないでくれます。こんな斬新な演出ははじめて見ましたよ。これが2012年のザルツブルク音楽祭で好評を得たという演出なのかな?すごいですね。

また、劇中には現代的な「キックボード」で喜劇役者が走り回ったり、バレエダンサーが出てきて踊り始めたりと、なんとも面白いギミックが随所にしかけられていました。これはオペラ初心者でも間違い無く楽しめる感じですねえ。

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Photo by Wiener Staatsoper/Michael Poehn

 

さて歌手達はどうでしょう。プリマドンナ/アリアドネ役(ようは主役)のグン=ブリット・バークミンはとにかく感情表現が豊か!この役は見捨てられ世を儚んでいる設定なのですが、悲壮感ただよわせつつも心のどこかで助けを求めているであろう感情が、歌だけでなく表情からもありありと伝わってきます。いち歌手でありながらも、ハイレベルな女優ですね、これは。

また喜劇団の主役であるツェルビネッタを演じるダニエラ・ファリーは、超絶技巧が要求されるコロラトゥーラ(簡単に説明すると、歌の中に装飾音的なトリルを多様して歌う)のまたうまいこと、うまいこと。途中の見所であるアリア部分では、あまりの素晴らしさにものすごい拍手喝采が巻き起こりました。アリアの後には拍手をする文化ですが、それにしてもすごい拍手でした。

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Photo by Wiener Staatsoper/Michael Poehn

 

さすがウィーン国立歌劇場の公演だ…と口をぱくぱくさせながら見ているところに登場したのが、後半より現れる真打ち、テノール/バッカス役のステファン・グールドです。いやあ、とにかくものすごい。人間ってこんなに声、出るんですか!?と衝撃を受けるほどの音圧

バッカスという名の通り彼は「神」の役なのですが、いやあ、天の上からこんな声で歌われたら、そりゃ民衆もひれ伏します。これからこの人が歌う!と身構えていても体がビクッ!とするという衝撃体験は初めてのことでしたよ。劇の雰囲気も喜劇的なそれから、突如としてワーグナーのような荘厳な雰囲気に。いくら神役とはいえ、たった1人でここまで雰囲気を変えられるもの!?もちろんそこには音の厚みを徐々に増していったウィーン国立歌劇場管弦楽団のサポートがあるのですが、それにしても。超一流の歌手は、本気ですごい

クライマックスにはアリアドネとバッカスのかけあいが。これがまあ筆舌に尽くしがたい。なんだろう。人間の声が最高の楽器とは良く言ったもので、感情表現から声量の幅まで、本当に同じ人間とは思えないほど!いったいどうなっているんだ!?これは家では絶対に感じることができない感覚ですね。歌手がこちらを向いた瞬間の、まっすぐに飛んでくる音のものすごいこと、ものすごいこと。どう表現したらいいのかわからないほどにショッキングでした。

 

気がつけば1時間半にもわたる幕は、あっという間に終了。鳴り止まない拍手。拍手。ウィーン国立歌劇場の実力、確かに目で耳で体で感じさせてもらいました!

 

のりおのまとめ

この席に座るまで20年かかりました。もちろん機会はあったのですが、色々な事情というのはあるもので、海外の楽団の来日公演というものには「一期一会」の精神が色濃く出ると思っています。

そう考えたとしたら、なんという体験だったのでしょうか。

世の中にはウィーン国立歌劇場のためだけに数年かけて貯金をする、という人がいると聞いたことがあります。それくらいにこの楽団は特別なものでした。唯一無二の体験を本当にありがとうございました。

 

関連リンク

ウィーン国立歌劇場 2016年日本公演/NBS公演一覧/NBS日本舞台芸術振興会

オーストリアの休暇. オーストリア政府観光局ホームページ.

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ウィーンの音楽

 

SpecialThanks

同公演には、縁あってオーストリア政府観光局よりチケットを提供していただきました。また本文中のオフィシャルフォトも提供いただきました。本当にありがとうございました。