北海道天塩町の挑戦!この突き抜け感は限界集落における地方創生のモデルケースとなるか?【取材】
北海道の天塩町、と言われてすぐに明確なイメージができる人は少ないだろう。
この天塩町は、天塩川の河口に位置し、シジミの山地として有名な土地。昭和初期までは北海道の交易における重要拠点でもあり、早々に鉄道が引かれたことからもその立ち位置が想像できる。
一方で高度経済成長期においていかれた代表的な集落でもあり、元々あった林業、ニシンを中心とした漁業の衰退から、北海道中心部への人口流出と、急速に衰退への道を歩んでしまった土地としても有名なのだそう。事実、この40年で人口は半分となり、現状すでに4,000人を割り込んでいる。これはまさに「過疎地域」であり「限界集落」でもあるだろう。
そんな天塩町が地方創生プロジェクトについてのイベントを開催するというので取材をしてきた。結論からいうなら、この取材は行って良かった。この形は、地方創生のモデルケースになる可能性を秘めている。
天塩町が地方創生を目指せた理由
この天塩町のプロジェクトには、1人のキーマンがいる。それが総理官邸での広報職から天塩町副町長へと異例の転身をした「齊藤啓輔」氏だ。きっかけは当時に対応していた北方領土問題。北海道へと訪れることが多かったことも手伝って、同地における地方衰退の状況を目の当たりにすることになったそうだ。
なったそうだ、とは簡単に書いたが、ちょっと普通では考えられないことだろう。外交の専門家が、限界集落の副町長に転身したなんてケースを、少なくとも僕は他に知らない。
天塩町の手段
こちらが天塩町の町長。さて、情報を広められる人は揃った。次の1手として、天塩町はどんな手段を取ったのか?
シンプルにいえば、天塩町にある素材を上手に調理してくれる人材を求めた。こうした地方の廃れていく街をを復活させるには、まず街に自信を持ってもらうことが重要だ。そうでなければ、街の若者の流出を止めることができない。個人的には、ほとんどの過疎が進む街の病巣は、自分達の街を誇ることができない、その1点につきるのだと思っている。まず大事なのは、自信をもつことだ。その点で、地産の食材を生かすというのは、手軽に実施できる施策のひとつだろう。なんせ、素材は既にある。現地で食べたいという人を生み出す効果もあり、観光誘致的な側面も生まれる。
とはいえ、一方では使い古された手法でもある。しかし今回のこの天塩町がやっているそれは、少しクオリティが違っていた。突き抜けていた。
たとえばイベントひとつとっても、地方自治体の地方創生イベントとは思えないレベルの盛況さだった。会場は九段下のイタリア文化会館。ゲストは山本幸三地方創生大臣(正確には内閣府特命担当大臣で担当が地方創生と規制改革)を初め、自民党の後藤田正純副幹事長など、相当に豪華な顔ぶれ。
こちら山本大臣。
後藤田副幹事長。もう50近くのはずだが、イメージより若い。
撮影などで緣が深いという岸谷五朗さんまで登場した。
こうした政界・芸能界の大物に加え、素材を生かす料理人達も揃えられた。
まずは和食「六雁(むつかり)」の秋山氏。
六雁は銀座の有名料亭だが、特に秋山氏は郷土料理の再創出に長けている。今回のプロジェクトにはぴったりの人選だろう。天塩町名産「秋の山漬け」を使った「山漬け餅」を開発したそうだ。
餅の食感と鮭のしっとり感がマッチしていて、面白い食感。
次にならぶのは、ベジソバブームを巻き起こしたラーメン店「ソラノイロ」の宮崎氏。ソラノイロはミシュランに掲載されたことでも知られている。
偶然にも以前から天塩町の名産である「しじみ」を活用していて、それを生かし、全国へ展開できるカップ麺を開発したそうだ。
いまやご当地カップ麺は広く受け入れられていて、観光地からのお土産としても喜ばれるものになりつつある。また、パッケージでのPR効果に加えて「味」という唯一無二の訴えかけができるので、その土地のイメージを作るにはかなり有効な手法だと思う。おみやげにもらったが、残念ながらまだ試食していないので、感想はまた改めて。
地方に眠る女子受けしそうな材料を、女子向けに再発明するという「ハピキラFACTORY」。
プロデュースしたのは、天塩町・宇野ファームの牛乳。といっても、牛乳なんてどこにでもある、というのは代表の正能氏のいうとおり。そこで「飲むパンナコッタ」というありそうでなかった製品にしあげたんだそう。
この発送の転換は面白い。名前は「とろパンナ」とそのまんまなところもいい。わかりやすい。
で、これが想定外に牛乳っぽさを強く残していて、乳製品好きの僕にはバッチリはまった。甘さもかなり控えめで、これは確かに面白い。1本いくらになるのかが気になるけど、商品として可能性を感じる。
次に登場するのは半蔵門の南イタリア郷土料理店「エリオ・ロカンダ・イタリアーナ」のエリオ氏。
この雰囲気がいい。氏は天塩町の食材を生かしたメニューづくりを総合的にやっているよう。当日も様々な料理がふるまわれた。
名産のミズダコを生かした。
鱈の塩漬けからバッカラを。
ニシンをベッカフィーコ風に。
せとかのジャムと甘エビに、自家製リコッタチーズをまぜた前菜。うまい。
エリオのスタッフが子羊を切り分けてくれる。
(追記)単なるスタッフだと思っていたら、後から「羊を切り分けていたのは、ただのスタッフではなく、実は料理の鉄人にも出た、エリオ・ロカンダのエグゼクティブシェフ、ジェルマーノです」と教えてもらった。そんなにものすごい人だったのか!
エイヒレ。
そして乳製品を生かしたドルチェ。
どれも大変においしく、イタリア郷土料理と、北海道の素材って相性がいいのかもしれないとの発見が。
最後に登場したのは目黒のジンギスカン料理店「カブト」の多々良氏。
なんと天塩町出身とのことで、過疎の一因です(苦笑)という自己紹介はあったものの、地元の名産を伝えるという役割では重要な人物だと感じた。
鮭の山漬けを実演してくれた菅井氏。鱗に対して逆らうように粗塩をすり込むことで、塩がよく馴染むそう。
とてもおいしそう。
地方創生で地元の食材を生かして!というのはよく見かけるが、こうした一流の料理人を複数起用したり、女子向けに加工したりというのを複数用意したというのは、やはり聞いたことが無い。
すでにAmazonでも販売チャネルを持っていて、やはりこれは手練れだなと。
天塩漁師直伝 『TESHIO 鮭の山漬け』 一尾まるごと 切り身カット個別包装・特製木箱入り
いろいろな自治体のお手本になりそうなプロジェクトだ。
のりおのまとめ
地方創生って言葉は一人歩きしがちで、いろいろと細かい事はやるんだけど、1年後には誰もが忘れていて…みたいなケースが多々発生しているんだと思う。その意味では、この天塩町のように「突き抜けて」ガンガン製品を生み出してしまうってのは、アリだなと思った。
もちそんそのためには人材が必要だし、予算も必要。もちろんその地の持つポテンシャルも必要。
だけどこうして天塩町が成功事例を作ってくれたなら、次からはそれら負担って間違い無く下がるはず。だから、ぜひ他の地方には「2匹目のなんちゃら」を堂々と目指して欲しいなと思った。
とにかく充実したイベントだった。
参考リンク
おいしい本格イタリアンレストラン『エリオ ロカンダ イタリアーナ』
なお、本イベントにはいちメディアとして参加させてもらいました。ありがとうございました。
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