今回のワールドカップを普及と育成の面から考える

2010/07/02サッカー/フットサル,読み物JFA,soccer,ワールドカップ,子供たち,日本,読み物

いちおう僕もJFAファミリーのはしくれ(C級コーチ)ですから、やっぱり気になるのは普及と育成。今回のワールドカップがその普及と育成にどう影響するのか、個人的な立場で考えてみました。

育成に関してはどうか

まず育成に関してです。育成とは、サッカーをより好きになってもらい、ゴールデンエイジ〜青年にかけて技術を習得、世界で戦えるプレイヤーを育てることが命題です。

いくつかの項目に分けて考えてみたいと思います。

ドイツW杯からの反省は生かせたか

以前にこんな記事を書きました。

JFAのテクニカルレポートや講習会で「ここがドイツの課題」と伝えられているのが、下記2点です。

・守備の意識を変える(ボールを奪いに行く)
・技術の認識を変える(質・量共に)

もう少し具体的な言葉にすると、前者は寄せを厳しく、相手に自由なプレーをさせない、そして最終的にはボールを奪う守備の意識を高めること。後者は技術をそもそも向上させなければいけない、という考えです。この2つの中でも、特に短期的に達成できるのが前者の「守備の意識を高める」であると思っていたため、今大会ではそこに注目して試合を観戦しました。

結果は…みなさんも知ってのとおりですよね。素晴らしい守備の意識と、組織的な守備によって、日本は強固な守備ブロックを形成、無駄な失点をしないことでベスト16まで勝ち上がることができました。

つまり、ドイツの反省を省みたときに、JFAは日本代表に正しい進化をさせることができたといえます。たとえ突貫工事だったとしても、意識だけで守備は変わることを実現できましたよね。あとはこの意識が継続するかどうかがカギだと思います。

子供たちに対する影響はどうか

子供たちの育成の中でも大事にされているところといえば、確かな技術とゴールの意識を植え付けることです。特にボールをもらったらまずゴール(と周囲)を確認する、という「視野の確保」はかなり重要視されている項目であります。

ではそんな中で、W杯ではどうだったかといえば…ヒトコトでいえば微妙なところです。判断間違いがそんなにたくさんあったとは思いませんが、特にゴール前の決定的な場面でシュートの意識が低かったり、視野の確保ができていなかったりで、もったいないことをした場面はいくつかありましたね。そう考えると、デンマーク戦の本田の3点目アシストは、シュートの意識と視野が合わさった素晴らしいものでした。彼のシュートの意識が高いからこそ、クライフターンの効果とフリーの岡崎が発生し、彼がしっかりと視野を確保していたからこそ、そこまで難易度も高くなく、しかし確実にゴールへとつながるパスが出せました。責任逃れのパスではなかったところが素晴らしかったです。

一方でパラグアイ戦ではもったいない場面がありましたね。延長も終盤、玉田がGKと1対1になった場面で、無理やりパスを出したためにゴールチャンスを逃してしまいました。対照的に、同じような場面でスペインのビジャはシュートをし、一度はGKに止められますがその跳ね返りを再びシュートしてゴールに結び付けています。本田の場面と似て異なるのは、中にパスしたからといって決定率が上がったかといえば、そうではなかったこと。シュートの意識は無かったのかなあ。ドイツW杯で同じような角度から決めているだけに、僕はシュートを打ってほしかった。

これら場面、理想的なのはやはり本田やビジャの選択だと思うんですよね。まずはシュートが第1の選択肢にくる。パスは次の選択肢。そこで判断して、確実なプレーを選ぶ。選べないとパラグアイ戦のように失敗してしまう。もちろん結果論ではありますが。

とにかく大事なのはゴールを見ること、狙うこと、そして決めること。攻撃面で言えば、子供たちに真似をさせたいプレーをもっともっと見せて欲しかったですね。

普及面ではどうか

普及についてもちゃんと考えておきたいところです。普及とは、いかにサッカーを見る人、プレーする人、興味がある人を増やすかということ。つまりパイを広げるってやつですね。

最高のインパクトが残せた

特にデンマーク戦がそうでしたが、あれだけ多くの人に「深夜でもサッカーが見たい」と思わせた上に、あの完勝。これ以上無い成功体験とインパクトを視聴者の方に与えることができたと思うのですね。もう文句なしだったと思います。

引き続いたパラグアイ戦。PKで敗退こそしてしまいましたが、多くの視聴者がハラハラドキドキ、そしてPKで負けるという悔しさを味わいましたよね。これも体験としては最高だったと思います。もちろん結果としては悔しいですけどね。

ようは、いかにサッカーを軸として見ている人の心を揺さぶるかだと思うのです。このインパクトをそのままJリーグに引き込むことができれば、間違いなく日本のサッカーは一皮向けると思うんですよね。

メディア的には問題が残った

ただし、喜んでばかりはいられません。普及を願うときにどうしても必要なのがマス・メディアの力です。なんせリーチできる量が違う。普及ってどれだけ多くの人にリーチできるかも重要だと思うんですよね。

そのメディアが…まだまだ未成熟です。自分たちの意見が無いというか、事なかれ・話題先行主義というか。分析も議論もへったくれもなく、ただ単に字面だけを追い求めた報道に終始しがちです。

また先日のイベントでセルジオ越後さんはこうおっしゃっていました。

「予想が外れたら謝るのは当然。当たったからざまあみろと言うわけでもない。サッカーが盛り上がるために批評をしているのだから。ダメになったら飯が食えなくなるからね( @supportistaより)」

ほんとうにそうなんですよね。自分の確固たる理論があって、信念があって、それに基づいて意見を述べ、当たっても外れても検証をするのならわかります。でも、単に支持の多いほうに手のひら返しってどうなんでしょう。

失敗だって経験なのですから、顔色うかがいばかりではなく、思ったとおりに全力でぶつかって欲しいなあと願ってやみません。

伝える側の知識と普及の意識

サッカーを報道する側にサッカー知識と普及意欲があまり感じられないのにも危機感を覚えています。サッカーの面白いところを、観戦の方法を、それぞれわかりやすく扱ったような番組って無かったですよね。長い目でみればそちらのほうが普及にも繋がるし、視聴率にさえ影響を及ぼすと思うのですが、マスメディアは短期的な成功に走りがちなので、そうも行きませんでした。

実際サッカーの観戦方法に関する需要は多く、 切込隊長の件もそうでしたが、 中西哲生さん 僭越ながら僕の行ったTwitterサッカー解説実況はかなり好評でありました。みんな、楽しみたいんです。でも楽しみ方がわからないんです。個人がやるレベルには限界があるわけで、やはりそこはメディアに期待したいんですよね…。

ただまあサッカー普及なんて知らないよ!と言われたらそれまでなんですけどね。そっぽを向かれないように要求していく。難しいところです。

ワールドカップの試合って見やすくないですか?

これも今後大きく問題になりそうですが、ワールドカップのカメラワークは素晴らしく上等で、これに慣れた人がJリーグ中継を見たらがっかりすると思います。これからの普及を考えたとき、試合の質とは別にコンテンツの質も問われると思うのですよね。これもやはりメディアに期待したいところです。

全ては通過点に過ぎない

JFAは2050年までに日本代表がワールドカップで優勝することをミッションとして掲げています。いまはまだ通過点に過ぎないことは明確ですが、重要なのは今走っている線路の延長上にワールドカップの優勝があるかどうか、ということだと思うんですね。

ベスト16に残れたことは素晴らしいことだし、PKでの敗退は紙一重と受け止めて終わることだってできます。でも、我々が考えなければいけないことは、2050年までの優勝です。あと40年もありそうですが、この40年間に優勝したチームはたった5カ国しかありません。果たして日本はその5カ国に入れるのかどうか。こればかしは信じるしかありませんね。

今はただ、自分にできることを。僕が、他の人が、サッカー好きな誰かが、1人でもサッカーに興味を持ってくれるよう、普及のための何かをしていくことが重要なのだと思いました。

まずはJリーグを見に行くことから、誘うことから、チャレンジしてみましょうかね。

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